大谷翔平 Is What Baseball Needs @TIME を日本語化しました。


昨日メルマガで先行配信したんですけど、TIME誌に掲載された大谷翔平選手関連記事を日本語化しました。自分のために。自分が一番日本語化されたものを読みたかった。

翻訳ソフト入れて適当に書き換えればいっかー程度に思っていたんですが、適切な日本語にしようと思うと全然全く役に立たず、途中で止めるのも悔しいので最後までやって3日かかりました。翻訳者の人ってすごいな…。尊敬します。


あまりに長いので自らネタバレしますと、筆者はアンチ・サイバーメトリクス。最近の野球は退屈で、日本の昭和に見られた古風な野球にこそ魅力があると思っています。個人的に言いたいことはとてもよくわかります。ゴールデンステート・ウォーリアーズが復活40年ぶりに優勝した2014−2015のシーズンにわたしは初めて試合を生で観戦しました。その時旦那に言ったことを今でもはっきり覚えています。
「ビール買いに行く暇がないんだね」
野球は相手チームの攻撃の時はのんびりとビール買いに行ったりトイレ行ったり出来ますし、自分が応援するチームの攻撃でも打順が退屈なものなら席を立って買いに行きます。ところがバスケットボールの試合は試合展開が凄まじく早く一瞬も目が離せないのです。日本の古風な野球、送りバント、盗塁、2死ランナー1・3塁からの三塁打!のようなチマチマ塁に出て得点を重ねる野球のほうが絶対面白いに決まってます。

自分語りが長くなりましたが、10000万字を超えますので連休中、お暇な時のオトモにどうぞ。大変でしたが訳して良かったです。野球の好きな「おおきなおともだち」には楽しんでいただけると思います。




ロサンゼルス・エンゼルスの春季トレーニングで、大谷翔平が日陰のベンチに座ってバッティングケージの順番を待っていると、まるでレストランでハリウッドスターがテーブルに案内されている時のような雰囲気になる。誰もが見て見ぬ振りをしているが、本当は皆そわそわと興奮している。

オールスターに出場し46号のホームランを記録したスラッガーでピッチャー。彼、大谷翔平がアメリカの野球人気の復活の鍵となる。


大谷は、大リーグ史上かつて誰も見たことがない野球の才人である。彼以前にプロ選手で投打の両方をこなした選手に一世紀前のベーブ・ルースがいる。しかし彼はそのキャリアの比較的早い時期に投手をやめ打者に専念し、そして誰もベーブ・ルースを足の早い選手とは呼ばなかった。一方大谷は昨年は26盗塁を記録、満場一致のアメリカン·リーグMVPである。この男、オオタニを見てください。野球界の救世主は、マーベルのスーパーヒーローのような体で子供のように楽しそうにプレーしている。練習で大谷がピッチャーゴロをエラーして思わず笑うとき、その笑い声は内野に、まるで誰もが知る“ アニメのネズミ ”の笑い声となって伝わるのかもしれない。


新しい野球シーズンの始まりにファンは希望を抱くものだが、野球界はかつてないほそれを渇望していた。今年の4月7日の開幕戦はアメリカにおけるいわゆる国民的娯楽である野球がその人気低下と格闘する中開催されることとなった。
野球の試合時間は映画ガンジー*並みに長く3時間以上にも及びホームランと三振ばかりでドラマ性を欠き退屈なものとなっている。シーズンオフのMLB機構と選手会の対立による99日間のロックアウトで、野球ファンの心は2つの素晴らしい機会、ひとつはパンデミックによる球場の収容人数制限からようやく開放されたこと、そして、もう一つは2021年のシーズンから活躍する日本生まれの天才、大谷の活躍が野球に関わる全ての人を奮起させているのを目撃するチャンスを奪われかねないという焦燥感に支配された。

*1982年公開。上映時間は188分

「何か自分でやったことっていうのはあんまり、自分ではすごいなって正直思わない部分のほうが強いと思います。」27歳の大谷はTIME誌に語った。その真摯な眼差しは偽りのない謙虚さを裏付けている。「いいシーズンを過ごせたことは良かったと思いますが、大事なのは持続することです。そうした意味で今年はとても重要な年です。」

大谷の並外れた才能は野球だけではなく、野球よりもっと大衆の興味を引くであろうとアメリカ人が考える他のデータ駆動型(data-driven)スポーツ、すなわちデータで雁字搦めにされた全てのスポーツをも救うパワーを秘めているのかもしれない。なぜなら彼は「理想的には8歳になる前に、一つのスポーツを選択し、一つのポジションを選ぶ」という幼少期から特定のスポーツにひたすらに打ち込むことによって才能が開花するという常識をたった一人で覆してしまったのだ。
ある回に160km/hの球を投げ次の回には180km/hの本塁打を打つような選手は、トレード、年俸、注目度、査定、スポーツベッティングなどスポーツの醍醐味の多くを左右する、複雑怪奇なDRS/WAR/FIP*などの数値の総称、「データアナリティクス」の独裁に挑んでいるのである。

*DRS:Defensive Runs Saved/守備防御点 WAR:Wins Above Replacement/ 打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す指標 FIP: Fielding Independent Pitching/チームの守備力や運に左右されず、投手の純粋な能力を表すことができる指標

「数字で、だ。」

エンゼルスの監督ジョー・マドンはこう続けた。「数字によってスポーツ、特に野球は社会主義的なものになりかけている。」

「 野球界は皆、似たような選手を同じ方法で育成し、同じプレーをさせることを望んでいる。そのため人間らしさをどんどん取り除く。球界全てを専門家化した結果、野球がちょっと退屈なものになってしまった。」

「僕たちのクルマは全部同じ色になっちゃったんだよ!」


「野球のリベラルアーツスクール出身の指導者」 すなわち選手育成に特化した自由な指導方法で知られるマドンは長らく低迷したシカゴ・カブス*を2016年 “ まるで1964年のビートルズのように* ” 注目されたワールドシリーズで悲願の優勝に導いた。しかしアメリカではアメリカンフットボールやバスケットボールに魅了される人が増えているようだ。

*ビートルズは1964年にアメリカ初上陸。空港には5000−1万人にもおよぶファンとマスコミ関係者が押し寄せビートルズを迎え、出演したエド·サリバン·ショーの視聴率は72%(7300万人以上が視聴)ビートルズが演奏していた10分間には、ニューヨークで青少年の犯罪が一件も発生しなかったという都市伝説がある。

*シカゴ·カブスは1965年に地元ファンがいつも連れているペットのヤギの入場を断って「リグレーフィールドにヤギの入場が許されるまでカブスは2度とワールドシリーズに勝てない」と捨て台詞を吐かれて以来、2017年まで71年間優勝から遠ざかっていた。通称「ヤギ(ビリー・ゴート)の呪い」

「何よりも気になるのは、我々が国民的娯楽として人々に語られなくなったことだ。」とマドンは言う。

「選手にはこの状況を変える力がある。しかしそのためには彼らにカリスマ性を持たせ各々が偉大な選手であるという自覚を持たなければならない。」

昨年エンゼルス首脳陣が大谷に対して行ったことがその「偉大な選手であるという自覚を持たせる」ということである。彼は156奪三振を記録、100打点を獲得(記念すべき100打点目はあの46本目の本塁打)球界タイ記録の8本塁打26盗塁という記録でチームに応えた。こんなことを1シーズンで成し遂げた選手など過去誰もいない。そして大谷は195cm/95kgという体格を感じさせない軽やかな身のこなしで、アメリカ人がすっかり忘れていたメジャーリーグを、野球を思い出させたのである。

「一回できるなら出来るだろうって思う人がいる中でプレーしなきゃいけないっていうのは、それはそれでプレッシャーになるときはあるかなと思うんですけど。」大谷が今季を語る。(インタビュー時は来季)

「期待してもらえる楽しさっていう方が大きいかな。」


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大谷翔平は日本の北部にある小さな都市、岩手県奥州市で生まれ育った。父は野球、母はバドミントンと両親ともに三菱重工業の実業団選手であった。父は大谷がリトルリーグに入団するとそのコーチを務めた*。「週末しか野球を出来なかったので、週末が本当に待ち遠しかった。」大谷は語った。
試合に負け悔しがっているチームメイトを思い出す。「当時のことははっきりと覚えているんですが、皆が何故泣いているか理解できなかった。自分はただ楽しい時間を過ごしただけだった。負けて悔しいと思うほど一生懸命練習してたわけでも、真剣に野球に取り組んでいたわけでもなかった。」

*父は小学2年生で大谷がリトルリーグに入るとチームのコーチを買って出、シニアリーグでも指導を続けた。計7年間。

野球に対する姿勢は成長に伴い変化する。18歳(高校3年生)の大谷はアマチュア野球投手史上初となる160km/hを記録、幼い頃からテレビで見ていたニューヨーク·ヤンキースの松井秀喜のような体格へと成長していた。2012年日本の若手有望株筆頭であった大谷はアメリカの球団からのオファーを受けるつもりでいた。しかし、北海道日本ハムファイターズからマイナーリーグの過酷さを説かれその期間を日本で過ごすように説得される。更にファイターズ側は投手と打者の「二刀流」での育成プランを提示し、大谷はこれを了承。入団となった。

大谷は二刀流について「自分特有のリズムが出るような気がする」と言う。

「自分はピッチャーとして評価されていたので、もし高卒でメジャーを選んでいたらそのままピッチャーになったと思う」

彼はメジャー行きの代わりに日本のスタープレーヤーとして5年間を過ごした後ロサンゼルス・エンゼルスと契約。大谷は初打席でシングルを放ち、初先発のマウンドで勝利を収め、2018年のルーキーオブザイヤー/新人王に選ばれた。彼は一気に軌道に乗ったように見えた。しかしその年のシーズンオフにトミージョン手術と呼ばれる肘の手術を受ける。翌2019年はピッチャーマウンドに立つことはなく、バッターボックスでは「情けない」と感じたという。そして2020年、新型コロナウイルスのパンデミックによるシーズン短縮。その間当時のエンゼルス首脳陣が課した「旧・大谷ルール」(休養のため登板前後数日はラインナップ入不可)という足枷が彼の活躍を制限した。

「私は大谷がいかに規則正しくプログラムされた生活をしているかをからかうんだ。何時に食事、何時にストレッチ。これはシーズン中だけのことではない。」とミナシアン元GMは言う。「彼は労働倫理(work ethic)をよく理解している。大谷は素晴らしい知性の持ち主で、状況を瞬時に理解し修正することが出来る。彼の意識の高さは別次元だ。」

「旧·大谷ルール」の廃止で大谷が喜んだのは自然と身についていたリズムを取り戻せたことだけではなかった。登板する日に打席に立つことは「精神の安定に役立つ 」と彼は指摘する。「いい球を投げれない、ヒットも出ないときがありりますが、翌日に打者として挽回する機会があるのはすばらしいです。」更に球界は今シーズンから大谷を可能な限り長くフィールドに立たせるために事実上の新·大谷ルールとなる指名打者制(DH)をナ・リーグにも導入。これで投手が降板しても指名打者としてそのまま試合に出ることが可能になる。

投手としての大谷はストレート(フォーシームファストボール)、カーブ、カットボール、スライダー、スプリットの5つの球種を武器とする。スプリットに対する打者の打率は.087と極めて低い。バッターボックス、打者としての大谷は本塁打のうち24本が打球177km/h以上でメジャートップ。驚異的な活躍である。だから球場では誰しも、対戦相手のファンも含むほぼすべての人が大谷を見たいと思う。それほど彼のプレーは印象的だ。

昨年5月31日、対サンフランシスコジャイアンツ戦で9回二死に代打で登場した大谷に対してピッチャーが放ったのは3球連続のボール。するとジャイアンツファンは自分が応援するチームのピッチャーに大ブーイングを浴びせたのだ。「あんなの初めてみました。」と大谷の通訳でありまた友人でもある水原一平(元日本ハム球団通訳)は言う。また、7月13日にデンバーで開催されたオールスターでは、始球式を務めたNFLレジェンドのペイトン・マニング、2016年に野球殿堂入りを果たしたケン・グリフィー・ジュニア、デビッド・オルティスら錚々たるメンバーがが大谷と一緒に写真を撮りたがった。NFLアリゾナ・カーディナルスのスター、J.J.ワットは3月にアリゾナ州テンピで開催されたエンゼルスの春季キャンプで大谷を見て「我々はスポーツで多くのことを見てきた」「その中で、僕個人、今、この時代が見たことがないものがある。それが誰も見たことがないことをできる彼、オオタニだ。」とTIME誌に語った。


フィールドの外では大金が動く。大谷は現在スポンサー契約で年間2,000万ドル(25億円)以上を稼いでいる。人気ゲームソフト「MLB The Show」最新版のジャケットを飾り、仮想通貨取引所「FTX」のグローバルアンバサダーの他、ヒューゴ・ボス、アシックス、興和、日本航空などとも契約を交わしている。しかし彼は、例えばマイケル・ジョーダン(元NBA)やペイトン・マニング(前出/元NFL)のように、ありふれた広告塔になることにはほとんど興味を示していない。Twitterのアカウントも持っていない。過去2年間でInstagramに投稿したのはたった20回である。(ただし130万人のフォロワーがいる。)

大谷はプレー内容で自分を表現する、すなわち野球だけで勝負することを望んでいる。これは斬新な姿勢だがアメリカの野球人気の復興には貢献しないかもしれない。彼が挑むもう一つのもの。それは「英語」だ。渡米4年目、彼の語学力は向上している。「超ヤバいくらい上達しましたよ。」と通訳の水原も言うが、インタビューなど公の場の大谷は未だ日本語を話すほうがずっと楽だ。昨年夏、スポーツチャンネルESPNの解説者スティーブン・A・スミスが

「一番有名な奴が通訳使わないと何言ってるかお互い理解できないとか役立たずじゃないか。」

と生中継中に発言し炎上、スミスは発言について謝罪した。

大谷は英語についてこう語る。

プレッシャーはないと言ったらあれですけど、喋れたら良いなともちろん思いますし、また、何回も言ってますけど野球をすることが仕事なのでそのために日本から来てますし、そこ(野球、プレー)でコミュニケーションを取るというか、自分を表現するっていうのが一番やらなきゃいけない事なので、そのため(野球)に割く時間のほうがもちろん大事ですし、それにプラスして(英語で)コミュニケーションを取れるっていうところがプレーに大きく反映される部分もあると思うのでそこ(英語学習)も大事だなと思うんですけど、優先順位的には野球のほうが全然大事だなと思ってます。



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野球界にはスーパースターが必要だ。5歳以上のアメリカ人がその名前を認識しているスポーツ選手のリストでは53番目でようやく現役メジャーリーガーの名前が挙がる。30%のアメリカ人がサンフランシスコ・ジャイアンツの三塁手エバン・ロンゴリア(Evan Longoria/36歳)の名前を知っている。彼は全盛期を何年も過ぎているのに未だ「オールスター選手」と称される。「名前が似ている女優のエヴァ・ロンゴリア(Eva Longoria)からハロー効果(認知バイアスの一種)*を得ているのかもしれない」とこのリストの調査を行うQスコア*のヘンリー・シェーファー副社長は言う。彼は決してふざけているわけではない。

*ハロー効果/ある対象を評価する時に、それが持つ顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のこと。
*Qスコア/米国で使われているブランド、有名人、企業、エンターテインメント商品(テレビ番組など)の親しみやすさや魅力を測る指標


何が問題か。野球のルール上仕方のない側面もある。例えばNBA(プロバスケットリーグ)LAレイカーズのレブロン・ジェームズは試合中ずっとコートに立ち続ける事ができる。しかし野球の場合、大谷のような規格外のマルチプレイヤーでさえ9打席に一回バッターボックス入りするだけ、ピッチャーマウンドに上がるのは週に一度程度である。1975年以降野球の平均的な試合は31%時間が伸びているが、これは監督が投手を交代させる頻度が倍近くへと増加したせいである。

データアナリティクス至上主義は野球をよりつまらないものへと変化させるプレースタイルを助長してきた。以前にも増してデータ武装をした野球では監督は中継ぎやクローザーを物色しに頻繁にブルペンに行き、野手はポジションを離れ打者が打つであろう方向へ移動するようになった。そして相手の打者は移動した野手を避けるようにバックネットに向けてホームランを狙うようになる。打者はより高いランチアングル(打ち出し角度)で本塁打を狙うため三振が多くなり、奪三振数は2021年1チームあたり8.68回、2000年と比べると34.6%上昇した。ホームランや三振はドラマチックだが、この2つを追求するとただでさえ長い試合時間がより長くなるのは想像に難くない。

野球の試合で最もエキサイティングなプレーの一つである三塁打は今や絶滅寸前だ。2021年は一試合チームあたりわずか0.14個で、歴代二番目の少なさであった。更に昨シーズンの盗塁率は過去50年間で最低。このように、野球はありとあらゆる面でスピード感を失いつつあり、人々の野球に対する興味が失われている中で自体は更に悪化しているといえる。

「アナリティクスはチームをより精鋭化する一方でファンにとってマイナスの影響を与えていることは間違いない。」とワシントン大学セントルイス校のパトリック·リッシュ教授(スポーツビジネス学)は指摘する。

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人気低下にあえいでいるはずの野球は富に満ち溢れている。MLBの新しい放映権契約は年間約20億ドル(訳2550億円)で26%増加している。大谷のチームメイトであるマイク・トラウト(Mike Trout/中堅手、通算300本塁打記録保持者)の契約金は12年総額4億2650万ドル(約534億円)であるにもかかわらず彼の知名度が高いとは言えずトラウトのQスコア22点*から算出するとアメリカ人の5人に1人しか彼を知らないことになる誰も野球がアメリカの生活の中心にあリ続けているなどとは思っていない。これはパラドックスである。

*2018年調べ。

「私のクラスには50人の学生がいますが、数週間前、私がメジャーリーグのロックアウトについて話した時、誰もそのことについて考えていない、興味がありませんでした。」と前出のリッシュ教授は言い、こう続ける

「もし70年代や80年代に同じ学生たちに同じ話をしたら彼らはきっとこう言うでしょう『それは大変だ。我らが愛する野球はどこだ』ってね。」

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「うちの辺りのリトルリーグは人数減ってるんだ。僕らが子供の頃はみんなリトルリーグに入ってたのにさ。悲しいよね全く。」カリフォルニア州サンペドロに住むビリー・グリシャムは言う。彼は妻と7歳になる息子と共にエンゼルスの春季キャンプ地であるアリゾナ州テンピのディアブロスタジアムを訪れていた。息子はエンゼルスの17番のユニフォームを着ていた。17は大谷の背番号である。

大谷のジャージ(ユニフォーム)は、球団ショップの売り上げの半分を占めており、中でも大谷の名前を漢字で表記したモデルは、他の東アジア諸国と同様、今でも野球人気が極めて高い国である日本で人気を博している。出身地以外の東アジアのMLB人気は大谷の存在が大きい。台湾ではエンゼルス戦の視聴率がそれ以外の組み合わせの視聴率に比べ84%も高く、韓国ではSNSのMLBの大谷関連の投稿が他の投稿に比べ179%も高いエンゲージメント*を獲得した。

*SNSのエンゲージメント/ Like RT リプライ等、ユーザーリアクション

NBA(バスケットボール)の世界的な魅力に限界がないように見え、NFL(フットボール)がアメリカのスポーツ界を支配しているとすれば、MLB、野球は中途半端な存在である。カリブ海と東アジアの一握りの国、特に日本でで絶大な人気を誇る一方、1970年代から80年代にかけて「ナチュラル」(1984年公開)「さよならゲーム」(Bull Durham/1988年公開)「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年公開)などのアメリカの真髄とも言うべき野球映画を送り出したこの国での人気はもはや主流ではないのである。

そんな中まるでキャスティング会社によって配役されたハリウッドスターのように華々しく登場した大谷を、日本の国営放送NHKの専用カメラが彼の一挙手一投足を追っていた。エンゼルスの春季キャンプには、4人のアメリカ人スポーツ記者と25人の日本人スポーツ記者が参加するのが通例で、これにはキャンプ地を見下ろす丘にいる大勢のカメラクルーは含まれない。

日本でその存在を知らない人がいない大谷は当然ながら東京の街を歩くことが出来ない。「もし彼が食事に行きたいときは、僕が店を予約して、歩けそうな裏道を探すんです。」水原は言う。では、大リーグ史上最も超人的、驚異的なシーズンを記録したここアメリカではどうか。

ホールフーズ(全米チェーンのスーパーマーケット)とか行けますよ。」

大谷は間違いなくこの国で称賛されている。Qスコアによると彼を知るアメリカ人の33%が「非常に好感が持てる」と回答し、これはマイケル·ジョーダン(元NBA)の32%、シモーン·バイルス(体操)の30%に次いで、全アスリートの中で1位となっています。しかし、彼が誰なのかを知っているアメリカ人は全体のたった13%しかいない。


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大谷ほど自分自身を観察している人はいない。春季キャンプでは全てのスイングを後でチェックするために通訳の水原がスマホで撮影していた。「気づいたら今日は彼、バッティング練習をたぶん3ラウンドしてたと思うよ。」エンゼルスの捕手マックス・スタッシが教えてくれた。「何を練習していたかはわからないけど、とにかく何かを練習してた。で、何か得たいものを得て帰ったよ。」

「大谷は、努力も労力を惜しまないからあの軽やかな身のこなしがあるんだ。」

大谷は自分のことを「二刀流のパイオニア」と称し、まるで近い将来自分のような選手が増えるかのように語る。

一番は比較する対象がないので、今後そういう人が増えていけば、サンプルが増えていけば自分がどのくらいの数字だったんだなっていう、その理解が深まると思うんですけど、いまいちそういう比較対象がないので、自分で(自分の成績が)どれくらいだったのかな、っていうのがあんまり理解しづらいかと思います。」これは彼の虚栄心からの発言ではなくもっとデータが欲しいという欲求からの発言だ。

また彼は「三振かホームランを選ぶならホームランかな。ホームランが出る確率のほうが低いので。」とも言っている。先に述べたようにデータサイエンスにより選択肢が二元化されてしまった近年の野球では、打者の殆どが三振とホームランであり、大谷はこのデータを体現していると言える。しかし彼は、データが全てではないことを知っている。大谷はマドン監督の指導スタイルと同じ、選手の自由な育成を主とする北海道日本ハムファイターズの下で成長し、注目を浴びやすい本塁打や三振だけではなく“ スモールボール ”*の楽しさを知るスラッガーだ。そんな試合中の緩急を、大谷は「愛すべきもの」だと言う。「野球の強みはその長い歴史にあるように感じます。他の近代スポーツにはないクラシックな部分ががあるんです。」

*スモールボール / small ball 野球の試合における戦略の一つ。盗塁やバントを重視。

クラシックさ。大谷のプレーはクラシックな野球らしさを持っている。

彼はその類まれなる活躍の継続を今季の目標としている。「世界一のワールドシリーズでチャンピオンになってみたい。」と言う。「自分にはさらなる進歩が必要。」「他の選手が年々良くなっていく中で自分だけが同じ成績にとどまることは出来ない。」

アメリカ野球界はプレーオフ、ワールドシリーズが開催され注目が集まりやすい10月のポストシーズンに大谷の活躍を心から必要としている。ロサンゼルス・エンゼルスは昨シーズンも勝率5割以下に留まり、2014年以来プレーオフにも進出していない。彼がワールドシリーズで勝利投手となり、また別の試合では勝利打点を決めるようなマルチな活躍をするなら、野球史の中で最も偉大な物語の一つとして語り継がれることだろう。…この可能性を否定してはいけない。なぜなら大谷は去年の数字を超えるためにここまでトレーニングをしてきたんだという「自分との約束」をしている。この物語が現実のものになれば、野球は本当に自信と威厳を取り戻せるかもしれない。

彼の全盛期は?

まだ、これからです。

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以下、冒頭の動画、大谷選手のインタビューの全文書き起こし。ちょっとニュアンスが違う部分がいくつかあったため、これを元に本文中の本人発言部分を一部、インタビュー発言そのままに差し替えてあります(太字部分)。

「全員選手そうだと思いますけどその長い歴史の中の1ページなので、より印象に残る1ページになりたいなと自分自身思ってますし、特殊なことをやっている性質上いろいろね言われること多いと思いますけど。まぁその中で印象に残る1ページになるように頑張りたいなと思ってます。」

「去年を基準とした数字を、まずは一番はね健康でワンシーズン送ることが去年の数字に近づく、または超えていく一番の大きなポイントかなと思って。そのためのオフシーズンのトレーニングだったりとか、今までね、ここまでのトレーニングっていうのを100%してきたっていう約束というか、ことは言えるので、1回できるならできるだろうって思う人がいる中でプレーしなきゃいけないっていうのはそれはそれでプレッシャーといわれればプレッシャーになるときはあるかなと思うんですけど、期待してもらえる楽しさっていう方が大きいかなと。」

「何か自分でやったことっていうのはあんまりね、すごいなって正直思わない部分の方が強いと思いますし、逆に自分ができないことをしてる人のシーズンとかってなるとやっぱすごいなって思うものなので、単純に二つやるっていうこと自体やってる人が少ないっていうのがまずその(すごいと正直思わないことの)要因かなと思いますし、一番は比較する対象がないので、今後そういう人たちが増えていけばサンプルが増えていけば自分がどのぐらいの数字だったんだなっていう、その理解が深まると思うんですけど、いまいちそういう比較対象がないので自分でどれぐらいだったのかなっていうのあんまり理解しづらいかなと思います。」

「出てきてほしいっていうかまあ出てきたときは嬉しいかなっていう方が正しいかなと思うんですけど。やっぱ最初にやる人がつまずくよりは、ある程度できそうだって思った方が入りやすいのかなと思うので、そういう意味では良いシーズンだったなと思いますこれからもこう続けていくことによって、挑戦しやすいのかなと思います。」

「(ベイブルースと例えられることについて)光栄なことだなと思います。ベイブルースさんに関しては野球もそうですもちろん素晴らしい成績ですよね、それ以上に何て言うんすかね。輝くものというか、選手してその人気が出る要素が強かったのかなと思うのでそういう意味ではこう記憶に残っているようなそういう選手なのかな。」

「そこまでいいビジュアルでもないですし、英語も喋らないし。プレッシャーはないと言ったらあれですけど、喋れたら良いなともちろん思いますし、また、何回も言ってますけど野球をすることが仕事なのでそのために日本から来てますし、そこ(野球、プレー)でコミュニケーションを取るというか、自分を表現するっていうのが一番やらなきゃいけない事なので、そのため(野球)に割く時間のほうがもちろん大事ですし、それにプラスして(英語で)コミュニケーションを取れるっていうところがプレーに大きく反映される部分もあると思うのでそこ(英語学習)も大事だなと思うんですけど、優先順位的には野球のほうが全然大事だなと思ってます。」

「野球がうまくなるためのトレーニングもしてますし、野球が上手くなるための食事もしてますしそういう生活をしたいなと思ってます。」

「世界一のワールドシリーズでチャンピオンになってみたいなっていうのとやっぱり殿堂入りするようなそういうシーズンを長いこと続けられる、それだけのパフォーマンスを長く続けられるってところが1番、二つですよね、目標があると思います。」



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